宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
しかし、元締めの声すら聞こえてこない。

ただ、悲しい、寂しい、そんな感情がどこかから、伝わって来るのだ。

鳶が帰ったら、何かしら、伝わって来る筈なのに、かんじるのは、胸騒ぎだけ。

私は、夜通し頑張って、縫い上がった法衣を持って、権現長屋に向かうことにした。

鳶の顔を見れば、不安は吹き飛ぶかも、知れないし。

雨が強いから、はの高い下駄を履いて歩いた。

権現長屋の手前までくると、胸騒ぎはどんどん強くなった。

長屋には、鳶はすでにいないようだった。

胸騒ぎだけ残して、鳶の気配は、遠ざかって行く。

けれど、私は、何が起きたのか知りたくて、鳶の部屋を訪れた。

心臓が飛び出しそうだ。

「御免くださいまし。さきでございます」

私は、そう名乗って木戸を叩いた。

中からは、町方の声がする。

彼らは、鳶を疑っている。

この生臭い匂いの原因が、鳶の部屋の裏から立ち上がっているからだ。

私は、町方が返事をする前に、自分で木戸を開けた。

この格好なら私は、まだ子供の針子に見えるはずと、確信を持っていた。


鳶は私の行動を叱るだろうが、私は鳶の部屋の様子を見たい気持ちがあった。

「おい娘。お前はこの部屋の住人の知り合いか?」

町方は、私にも疑いの目を向けてくる。

私は、法衣の繕いを頼まれたのだと説明した。

「それにしても、何の匂いだ?この部屋の住人は何処へ行った?」

「はい、円生寺に法会のお手伝いと言っておいででした。今日にはお戻りかと思って来てみたのですが、そのまま、旅にお出になったのかも知れません」

「そうか、一体何を埋めたのか…」


「たぶん、腐ってしまった食です。旅の途中でもらったものが、悪くなってしまったけれど、捨てられないと言っておいででした。この繕いを頼まれた時、外に埋めていらっしゃいましたから」

「そうか、円生寺の僧か。裏には、盛土をしておく。ここから毒が出て、魚が死んでおる。幸い広がってはいないようだが、気をつけてもらわなくては、お前は、お足をもらいにまたここへ来るだろう。坊主が帰ったら、上野の番屋まで顔を出すよう言っておけ。たがえるでないぞ」

町方は、鳶に文句を言いたいのだろう。

残念そうにそう言った。
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