宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
アフィリエイトOK
発行者:桜乃花
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
私は、まだ銭を受けとっていなかったし、持ち合わせもない。

すぐに立ち去るつもりだったが、長屋への木戸を開けた時、町方に見つかった。

彼らは、私の背後から声をかけてきたのだ。

私は、木戸を閉めて、隠れたつもりだったが、町方は、橋の上を必死にかけてくる。

私は、紫が洗い縫い直してくれた法衣を衣紋かけにかけたまま、木戸の飛び出した釘に引っ掛け、戸口のつっかい棒をわざと外した。

木戸は、たまに吹く強い風にばたばたと音を立て、法衣をはためかせた。

私は、表には回らず、わざと水たまりの中を歩いた。

荷物はなかったし、部屋に入らず、直接裏に回ったから、部屋の中には、入った形跡は無いはずだ。

不安はあったが、このまま姿を消すしかなかった。

早く、高い所へ、逃げなくては。

私は、火消しの家を目指す。

小さな矢倉があるからだ。

丁度、長屋の横丁から通りに出た辺りで、町方が、私の部屋に入った音が伝わった。

私は、托鉢の僧を装い、そのまま火消し櫓を目指した。

雨も強く、風もあるのに、荷運びの人達は思ったよりも多かった。


常に、一人二人の通行人があって、とうとう火消し櫓を通り越してしまった。



私の窮地が、紫に伝わったら、どうなるだろう。

私は、それが怖かった。

どうしたら、窮地が過ぎ去るまで、紫に黙っていられるんだろう。

分からぬまま、見えてきた、明神の森にしばらく隠れる事にした。



私は、適当な木を見つけると、迷わずに登った。

ここからは、大川の一部が見えると思ったからだ。


死んだ魚を集めるため、漁師が網を投げる姿が見える。

私の古くなった傘は、だんだんと重くなり、すでに雨を通す程、水を含んでいた。

体は冷えていたが、私は、やっとひと息ついて、自分の置かれた状況を考えた。

木戸にかけて来た法衣が、上手く町方の気を引いてくれれば、そのうちほとぼりがさめるのだが…

しかし、もう着られないかも知れないと思うと、寂しさが胸に湧いた。

せっかく紫が縫い直してくれたのに…

眠るわけにも行かないが、しばらくは、ここに隠れていられる。

私は安心して、安堵のため息をついた。


紫は、針を進めていた。

突然に、胸さわぎを感じて、風に耳を澄ませる。
31
最初 前へ 28293031323334 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ