宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
「二人とも、なんだか可笑しいほど真面目なの。ずっと続いているこそ泥の探索も、文句も言わずにこなしてくれてるわ」

「有り難い事です。修行を終えて戻ったら、私はもっと強くなっています。もう皆さんに迷惑をかけないようにね」

紫は、にこりとする鳶の顔のその下にある寂しさを感じていた。

それは、今はもう、はっきりと、鳶の声として聞こえていた。

この声に答えちゃいけないの?

何度も叫んで見たけれど、鳶は答えてはくれなかった。





紫は、粥と漬け物を盆に乗せると、木戸を開け、朝日を土間に入れた。

駕籠でこの長屋に帰った日から、晴れた日が続いて、泥を落とし、繕った法衣は、綺麗に仕上がっていた。

今、もう一着、新しいのを縫い始めていた。

まだ本当の僧じゃないからって、法衣が二着だけなんて、おかしいと思うから。

厚手の絹の一重で、夏の一張羅。

そうなるように、縫うつもりで、善三さんからお金を借りて、絹を買った。

寸法は、法衣を清めた時、だいたい飲み込んでいたから、実際に、鳶の体を計らなくとも、苦心はしなかった。




新しく縫った法衣を、渡したかったが、鳶は、明日からお寺に行くと言った。

「じゃあ、戻る頃、お足を届ける。皆で待ってるから、無理をしないでね」

「紫さん、安心して待っていて下さい。ほんの五日のことですから」

紫は、無理やり笑顔を作った。

「私は、どうして僧でなければならないのか、近頃分かって来たんです。私は弱い人間です。だから、命を学ばなきゃいけない。それでなくては、どんどん悪に近づいてしまう。私は、自分の罪を忘れない為に、僧になるべきだと思うんです」

紫は、外を見ていたが、鳶の心は見るよりも明らかに分かった。

「鳶の邪魔はしないわ。私は、危ない事はしない。頑張って来てね」

後ろ向きに、そう言って、紫はその場を離れた。

涙は、やはりこらえきれずにこぼれてしまった。

気持ちは、そこにあらわれるのだと信じて、針をすすめる事しか、今は出来そうもない。

しかし紫は、自分の素直な気持ちを伝えるには、その方がかえって良いと思った。

仲間を救い、役目を果たした静が、紫は、とてもうらやましかった。

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