宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
第1章 初宵 二つ目の力
亀さんの予想の通りに、尽安先生が歩き去ってしばらくすると、駕籠が二台やって来た。
彼らも、先に来た二台の駕籠も、仲間だと思うと、もう不安はなかった。
四人は、漁師や、行商人の荷車をやり過ごしてから、神田を目指した。
すべてを人任せにして、私は、元気な体を取り戻した。
幾日か眠り続けて、目を覚ました時、私は、紫に見守られていた。
神田の長屋は、綺麗に掃除されていて、垢にまみれた法衣は、綺麗に洗われていた。
「鳶。気分は?」
「…なんともない…少し腹がへりました」
「いまお粥を作るわね。弦太郎さんも、もう起きたのよ。良かった!二人ともなんともなくて」
紫は、何でも出来た。
私とは大違いだ。
お勝手の仕事も、針仕事も、器用にこなす。
私は、初めて一緒に務めを果たした時から、憧れていたんだな。
そう気がついた。
「鳶。元締めから、伝言よ。しばらくお勤めはかけないから、少し休め、今回は良くやった。ですって、お足は私が預かっているわ。明日届けるわね」
あの時の事、紫は、何かを感じたはずだった。
しかし、紫は、私が話を始めるまでは、黙っているつもりらしった。
「命が助かったのも、君のお陰だと、知っている。ありがとう紫さん。私は、動けるようになったら、しばらく、円生寺に修行に入らせてもらいます。大元締めにそう伝えて頂けますか」
紫は、少しがっかりした表情で、粥を作りに土間に降りた。
私は、紫の声が聞こえて来たことを、言うつもりはない。
話が通じるとなれば、紫は、もっと危険な務めに就かされると思うからだ。
決して言うまい。
もう二度と、紫に助けを求めるなんて止めよう。
要として、皆を守る。
私はそれだけは、果たしたいと思うからだ。
私は、目を閉じて、紫への憧れに蓋をしようとした。
「鳶。私は、誰かの役に立っちゃいけないの?いつまでも可愛い紫ちゃんでいなくてはいけないのかな?私、誰かの役に立つなら、辛い事なんかないわ」
私は、答えなかった。
紫の事を巻き込む事は、絶対に嫌だった。
「紫さん、水山と燕弥は、うまくやっていますか?任せてしまって、申し訳ありませんが、私が円生寺から帰るまでお願いしますね」
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