宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
私は、駕籠の小窓から、紫の絹を思い切り振り回して、鳶に答えた。

鎖一番組は、学者や、役人や、医者上がりの鎖がいる組だ。

小石川を本拠地にしているから、ずいぶん焦った。

神田からは、近いとは言えなかったから。

しかし、外に飛び出して、品川を目指していると、荷車や、駕籠が、たくさん往来していたのだ。

駕籠はともかく、医者は、鎖が望ましい。

そう思ったが、選択する時間はなかった。

いざとなれば、お上のお勤めだと言うしかあるまい。

いつもなら、いろいろ話しかけて来るのに、鳶は今日は静だ。

まさか、鳶も怪我をしているのかしら?

鳶、どうしたの?

返事はなかった。

私はいつものように諦め、すれ違った荷車からただよう血の匂いをやり過ごした。





僅かな時間眠っただけで、私は目を覚ました。

すぐ横の弦太郎さんと一緒に、穴の開いた法衣がかけられていた。

「お前、紫と何かあったのか?」

目をつぶったまま、弦太郎さんが言った。

「そんなにはっきり言われると、なんと言っていいかわかりません…」

私は、口ごもった。

「お前はまだ十六にもなってない。惑って当たり前さ。それより、俺は、変なことを言わなかったか?」

私は答えが見つからなくて、微笑んだ。

「別に、何もおっしゃってはいませんでしたよ」

そう言って、ごまかした。

何か忘れているような、変な感覚だ。

「お前は、静の事を思い出したりしないさ。紫の事ばかり考えてるからな」

「この前の、かどあかしの一件以来、私は、紫の事が気になって仕方ないんですよ。私はいつになったら、大人になれるんでしょう?」

「大人になんか、そのうち、嫌でもなっていく。なろうなんて思わなくていいさ…」

弦太郎さんは、また気を失ってしまう。

もう安心という訳ではないのだ。

亀さんは、街道沿いで、手拭いを振り回している。

どうやら、駕籠が近づいて来たようだ。

私は、体を動かそうとしたが、力が入らない。

良く見ると、私の手首の骨の上に、小さな傷がある。

血さえ出ていないが、ここから、毒が、入ったとしたら、私も、大変なことに。

妙な疲れ方をしたのは、この傷のせいか?

私は、だんだん遠くなる意識の中で、紫に別れを告げた。
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