宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
第1章 初宵 二つ目の力
私の目には、黒と紫の影が、動き回っているとしか見えず、味方が静なのかどうか分からなかった。
しかし、味方らしき二人は、見る間に敵の数を減らして行った。
弦太郎さんは、走り寄る私に気付いて、振り向いたが、目が合う前に、ばたりと倒れてしまった。
弦太郎さんの傷は、太ももの、一撃だけだ。
恐らくは、毒なのだろうと思われた。
呼びかけても、弦太郎さんは、答えなかった。
しかし、武道の覚えが有るためか、手足の元には、予め、血止めが出来るよう、輪になった細い縄が回してあるようで、足は、血止めがされていた。
毒も、体にはあまり回っていないように思われた。
私は、足の付け根を締めている細い縄を締め直し、弦太郎さんを背負い、神社まで行こうと歩き出した。
敵は一掃されたのか、背後に人の気配はなかった。
私達は助かったのか?
敵を倒したのは、味方なのか?
私は、相変わらず、悲鳴のような息をしながら、やっとのことで神社までたどり着いた。
亀さんは、社から抜け出し、水を汲んで来てくれていた。
「魚がいる川の水じゃ。弦太郎はどうした?」
「短剣に毒が仕込んであったのでは…しかし、自分で足の付け根を縛って有りました。脈もしっかりしています。早駕籠を頼めば、きっと助かります」
「そうか、間に合うと良いが…、暗殺者にとっては、剣に塗った毒が命だ。急がねば、命は助かっても、寝たきりになる…」
「しかし、この着物では…どこかで、用意しなくては…」
「お前の法衣はどうした?お前の作務衣を弦太郎に着せればいい」
私は、恐らくは、ボロボロになった法衣を思った。
「静か?」
「わかりません。私には、見えませんでした。でも、もう敵の気配はありません。とにかく、何か着るものを探して来ます」
私は、亀さんが汲んで来た水を一気に飲み干して、着るものを探しに出た。
探すと言っても、まだ日が上がったばかり、しかも、月末の棚ざらいを終えたばかりの商家は、まだ起き出す気配がない。
善三がいれば、どこかから、調達してくれたろうが、こんなに大事になるなんて考えもしなかった。
私は、疲れきった体を無理やり動かして石段を下る。
中ほどまで下った時、目の前に、紫の忍びが現れた。
「弦太郎はどうだ?今お前の仲間が医者を連れてくる」
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