宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
口には出さなかった。

どんなに遠く離れていても、今日のように風が強いと、紫の耳に届く事があるからだ。

私は、紫にこの気持ちを知られたくなかったし、気持ちを伝えたからといって、どうなるものでもなかった。

ただ、自分の中で、紫への気持ちを認めた事で、心は静まった。

私は、布団の中に戻ると、すぐに、深い眠りに引き込まれて行った。








自分に宛てられた短い手紙が、文箱の上に乗っていた。

どんな勤めかも、誰と何処へいったのかも知っていたが、鳶からの手紙は嬉しかった。

いつもの通り、心配するなと、言いたいのだ。

私の心は、いつも鳶には通じなかった。

私は、心配したり、面倒を見たりしたいのに、いつも守られるばかりだった。

いつか、皆を助けたい、それが私の望みだ。


品川まで、かなり遠いのは、離れて行く彼らの声で分かった。

彼らが品川についてしまうと、西風の吹いたときしか、彼らの声は、聞き取れなかった。

しかし、鳶のお経が聞こえてきて、私は安心して、布団に入った。

鳶は、私達の要なのだ。



彼に元気がないと、私達は、安心して働けない。


うつらうつらしながら、夕べの勤めの事を考えた。

せこいこそ泥だった。

一つの倉から、一両ずつ盗む。

それが手口だ。

ある問屋の倉の近くに私は隠れて、こそ泥の手口や、人数を調べたのだ。

どうやら二人組みの賊は、一人は女らしい。

足音が軽いし、千両箱を持ち上げ、息が上がった。

ただし、身が軽く、二人とも足音が小さかったな…


勤めを無事に済ませて、鳶が早く帰ればいい。

善三も、燕弥もいろいろ構ってくれるけれど、やっぱり鳶をからかわないと、私は、一日がつまらない。




まどろみから、眠りに入った時、また鳶の声が聞こえた。

いつもとは違って、はっきりとそばにいるような声だ。

紫、私は君が好きだ。君のためなら、仏の道を捨ててもいい。


思いもよらず、紫は飛び起きた。

そして、月を見上げ、しばらく何も考えられなかった。

確かに、鳶の声に間違いない。

どうしてあんな事言うんだろう。

鳶は、お坊様の修行をしているのに。

私の心臓は、バタバタと音を立てて、私の頭を覚醒させた。

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