宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
蓋を開けることが出来なかった。

「情けない男どもだな。どれ、お前の槍を出せ」

私は、鉄で出来た槍の柄を差し出す。

思った通りに、棺桶の中身は、黒くまではなかった。

亀さんに言われるまま、主のいない墓に土をかけたが、私の頭は、はっきりしなかった。


「さて、どうしたもんかのう。静も、相手が手を出さんうちは、気配を消しているじゃろうし。やはり、自分で身を守るしかなかろうな。帷子を持って来て良かったわい」

亀さんがあっさりとそう言うので、私はまた震え出した。

「死にたくないじゃろうな。悟りも知らず、女も知らずでは。夢の中で覚えた経のようなもんじゃ。そんなもの、何度唱えても埒があかんわい。それを知る時が、そろそろ来たんじないのかの」

私の背中に、亀さんはそんな事を言う。

紫が心に住み着いてしまったあの日から、私の心は弱くなった。

それを亀さんに見透かされたようで、私は、心を乱した。

「わしも死にたくないぞ。弦太郎もな。ひとまず宿まで帰って考えるか。灯りは持って行くことにしよう」

私は、ぼうっとした頭で、紫の事を考えた。

手紙を残してきた。

これから大元締めと行動するが、守りも着いているから、心配いらない。

しばらく空けるが、水山と燕弥の事をよろしく頼むと。

しかし、出発前の元締めとの会話で、勤めの危険な事は伝わっているだろう。

紫は、心配しているだろうなぁ。

紫は私の事を、驚くほどよく知っている。

しかし、私は、紫の本心を何も知らなかった。

紫は、いつも一方的に心を砕いているが、彼女の事を本当に知る者は少ないのだ。

私を含めて。

「…!鳶!宿に帰るぞ。また紫の事を考えておったな。明るくなって来たら、土を直し、神田に向かうとしよう」

また、亀さんにどやされてしまった。

私は、作務衣についた土を払い、二人のあとに、のろのろとついて行った。

宿には静かに入り、大きな座敷に敷いてある三つの布団に、それぞれもぐりこんだ。

私は、寝る前の日課を果たすため、縁側に抜け出して、小さな声で経を唱えた。

本当は、墓を暴いた事で、まだ眠れそうにないのだ。

そして私は、心の中の紫に話しかけた。

「紫、私は君が好きだ。君の為なら、仏の道を捨ててもいい」
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