封蓮貴~悲しい旋律~
第2章 第1夜 依頼
「で、他の被害は?」
「ない」
「は?」
「だから、ない」
「被害ってもしかして、その旋律だけ…?」
「うん」
肯定するように頷かれて、焔は目を細めた。
「その依頼をして来た奴は俺たちをおちょくってんのか?たかが旋律ひとつで依頼とは。ほっときゃぁ良いだろうが」
「そうもいかないんだ、焔。その旋律を聞いた人は、全員自殺未遂を起こしてる」
「それとこれと何が関係あるんだよ」
「その先生方は、自殺しようとした事を覚えていないらしい。そして、皆口を開いてこう言う」
―旋律が、旋律が私を呼んでる!!
「おかしいと思わない?彼らの傍にいた人たちは、その旋律は聞こえなかったと言っている。
つまり、学校で旋律を聞いた者達にだけ聞こえる旋律」
「……悪霊か」
「今の段階では未だ何とも言えないけどね。けど放っておいたら確実に悪霊になってしまうだろうね。だから、父さんは引き受けたんだ」
「……仕方ねぇな、やってやろうじゃねぇか」
渋々と言った様子で言う焔だが、目が活き活きと輝いていた。
元々焔は好戦的な性格だ。
暴れられるのが、内心楽しみで仕方ないんだろう。
「けど…僕の通う学校かぁ……」
「何だ?困ることでもあるのか?」
ヒュンッと尻尾を振って問う焔は面白そうに目を細めた。
理由を知っているのに聞いてくるかこの狐、と内心毒づき溜息を吐いた。
「僕は、日中動くのは嫌いなの。特に学校」
理由は聞かなくても分かるだろっと言い放つとスタスタと自室に戻っていく。
それを追いかける焔の口元は薄っすらと笑みが浮かんでいたのを、愛羅は知らない。
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