ブースの中の闇で
第2章 2章 初老の男との出会い
<回想>
それは 先週からのことだった
私は 長い面倒な取材を終えて
ボリュームのある原稿を まとめていた
新刊の 隔月女性誌の仕事で
締め切りは 近づいてはいたけど
資料も 揃っていたし
作成済みのメモと プロットに沿って
まとめるだけだから
極力 雑用を 排除して
集中した時間を 費やせば
なんとかこなせる と踏んでいたし
久々に 達成感もある仕事と思えて
気分は 仕事に 乗っていたと思う
自宅にいると つい緩んでしまう 時間を避ける為に
いつもの慣例で 量のある仕事をこなす時は
自宅のある場所から 一駅以上先で
緑のある舗道を歩くと 30分くらい
でも 運動不足に陥りがちな身には
朝と夕の 歩行運動と思えば
悪くはない 道のりにある
住宅地内の 公営施設図書館に
通うことにする
蔵書もそう多くはない
こじんまりした図書館だけれど
ビジネスルームには ノート用の電源が使用できたから
私には 静かで 原稿入力に没頭できる環境だった
毎朝 出勤する OLのように規則正しく
私は 図書館のビジネスルームのデスクに 付いた
時として 携帯電話で 呼び出される恐れのある 私は
入り口近くの すぐに走って廊下に 出られる
だいたい 定位置の席が 決まっていた
そして たいてい 斜め前に 座る 定位置に
初老といっても いいくらいの 熟年
身なりは きっちりと ノーネクタイながら
カラーの立った ワイシャツと スーツの
男に ほとんど 毎日 顔を 合わすことには
すぐに 気がついてはいた
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