珈琲ゼリー ~ほろ苦オフィスラブ~
第8章 二人の温度
主任はスタスタとその高級感あふれる薄暗い廊下を歩いていったけれど、私は明るいエレベーターの中で立ち尽くしたまま動けなかった。
『いっそ今から事実に』
この目の前に立ち並ぶ、扉たち。
これって、これって。
私の足は金縛りにあったように動かなかった。
動けないうちに、エレベーターのドアは静かに閉まっていく。
主任の後姿が、ドアにさえぎられていく。
「何やってんだ、美村」
ドアが閉まるか閉まらないかのところで、戻ってきた主任がボタンを押してドアは再び開いていく。
「はやく降りろ」
「で、でも」
「エレベーターをいつまでも占領していたら、ほかの客に迷惑だろ」
主任に手をつかまれて、私はエレベーターから薄暗い廊下に降りたった。
私を下ろしたエレベーターは、さっさと階下に下りていく。
高級感のあるデザインの廊下。間接照明。……落ち着かない。
宙にふわふわ浮いているような、現実じゃないような、変な感じ。
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