珈琲ゼリー ~ほろ苦オフィスラブ~
第4章 奈緒、舞い上がる
―美村、ちゃんと付き合おう―
体が大きく震えて、ガタン、と、イスが大きな音を立てた。
私の両目は、これ以上ないくらい見開いていたと思う。
テーブルの下の、足だってガクガク震えだした。
「しゅ、しゅ、しゅ」
「いやか?」
目の前には、主任の申し訳なさそうな顔。
眉間にしわを寄せているのはいつもと変わらないけれど、なんでか捨てられた子犬みたいな寂しい目。
「い、いやだなんて、とんでもないです。あのでも」
私なんかでいいんですか?
「でも?」
「ちょ、ちょっと、あたまを整理したいので、すこし待っていただいてもいいですか」
付き合うってことは、主任と部下の関係から恋人っていう関係に変わるわけで、呼び方とかも奈緒、秋人、とかになっちゃうわけでいままで嫌われている、そばにいれるだけで幸せとか思っていた私からは、相当な変化で、なんでこんなことになったのかわからないわけで……
「わかった。じゃぁ、今度の日曜、ゆっくりデートでもしよう。その時に」
「は、はい!」
それから、後半日のことは、あんまりよく覚えていない。
多分、半日ずっと、主任のことを考えていた。
『主任』と『付き合おう』と『デート』という言葉がグルグルと頭の中をまわっていただけの半日だった気がする。
もちろん、ミス連発で、主任にこっぴどく叱られたのは、言うまでもないのだけれど。
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