珈琲ゼリー ~ほろ苦オフィスラブ~
第3章 誤解のはじまり
「当社の経営方針ですが」
「いいよ、パンフレットもらえれば。それよりお嬢さん、そのジュースどうかね」
取引先の黒いソファにどかっと座った担当者は随分気さくな太ったおじさんで、主任がまじめな話をしようとすると、面倒くさそうに話をそらす。
思わずむっとする主任の横で、私は、なんとか場を和ませようと笑顔に努めていた。
「はい、このジュース、とってもおいしいです」
「そうだろう、そうだろう。うちの兄弟会社がやっている飲料会社のものでね」
「え、そうなんですか?ほんっとうに、すっごいおいしいです……何が入ってるんだろう?カシス?」
その言葉は嘘じゃなくて、本当においしかった。
兄弟会社ってことは、きっとここのお酒もとってもおいしいんだろうな。
「そうそうカシス。正解!しかし、そんなに幸せそうな笑顔をされるとまいっちゃうな。たくさん在庫があるからご家族にでも、もっていきなさい」
「わぁ!いいんですか!?主任!いただきましたぁ」
「ありがとうございます。……美村、その様子じゃ、お酒も飲みたかったろう」
隣から私に向けられた主任のちょっと皮肉な笑みに、恥ずかしながらも、顔がにやける。
「……はい、実は、飲みたくて飲みたくてうずうずしてました」
「あぁ、美村さんは運転手だもんなぁ。せっかくだから持って帰ったらどうだね」
「いいんですか?でもそんなに悪いです」
「いいの、いいの。うちの飲みたいって言ってもらえるのが一番嬉しいんだから」
終始こんな感じで、私ができたのは雑談ばかり。
商談をしたかった主任には、また迷惑をかけてしまったかもしれない。
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