愛のカケラ
第1章 『不幸はある日突然に・・・』
なにげない毎日ほど、本当は一番幸せな時間であることを
誰しも気づきはしない。
失ってはじめて、幸福というものの意味を知ることになる。
・・・しかし
それは突然に・・・やってくるものである。
~3カ月前~
-社内-
「五十嵐~ 五十嵐~」
月末で慌ただしくなった課内に
課長の美しいとはいえない声が響き渡る
※五十嵐 文哉
広告会社に勤務する40歳。
「どうしたんですか?そんな大きな声を張り上げなくても・・・」
「ハハハ・・・いいじゃないか。元気があればこそだ。
そんなことよりコレ。総務から健康診断の結果だって」
文哉はそんなことくらいで、人を呼びつけるなと
言いたげな表情で、受け取りに行く。
以前であれば こういた物でも各自の机の上に配布されていた
ものだが、プライバシー保護法施行以来、こういった風景を
見かけるようになった。
「あっ 五十嵐 お前の封筒に付箋貼ってるだろ?
それ再検査の案内らしいから、結果をまた総務に
報告しろってさ・・・お前飲みすぎじゃねえか?」
いたずらっぽい笑顔で課長が文哉に語りかけた。
「うーんってそうですねえ・・・って課長よりマシですよ」
「ハハハほんとだな・・・まあ 男も40過ぎると
体にガタがくるからお前も気をつけろよ」
「はい 来週にでも行ってきます。」
文哉は課長とのやりとりの後、毎度お馴染みの
再検査通知を自分の机に放り投げた。
(はあ~メンドクさい 再検査って何よ
どうせ 酒の飲みすぎか、タバコはやめましょう
って話だろ ほんとめんどくさいよなあ)
-自宅-
「ただいま」
玄関での文哉の声に、リビングから妻の香織が
飛び出してくる。
「おかえりなさい まだ夕食できてないのよ
今日は香澄のダンスのレッスンに付き合ってたから」
いつもの事だが、家事の出来ない言い訳は・・・子供だ。
「ハア・・お前は呑気でいいよなあ・・・」
文哉の言葉に香織の顔色が見る見る変わる。
「まあ・・・失礼な言い方ねえ・・・」
これもいつものことで、
言い争いになる前に、退散退散・・・
冷蔵庫からビールを取り出し、
逃げるように食卓へ
コレが結婚生活15年で編み出した
文哉の喧嘩しない方法。
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