羊
第3章 失意の中で
「よく働くんですけどねえ、まだ平均するとどうしても日本人よりは・・・」
「そうなんですよね。
中には日本人より優秀な人もいて、検査ライン一つ任されてるような人もいたんですけど、今社長さんがおっしゃられたように平均するとどうしても・・・よう現場の係長が愚痴こぼしてましたね」
「だから、うちも少しでも質の良い作業員をと思って色々やっているんですけど、まだなかなかうまくいかないところがあるんですよ」
「栃木にも工場があったんですよ」
引き続き辞めた会社の話。
「そっちは滋賀の工場とは桁違いにブラジルの方が多くて、昼間の食堂なんかは日本人よりブラジルの方のほうが多くて、食堂の自動販売機のコーラが一日で売り切れる言うてよ売店の人間が笑って言うてました」
「一年働いたら、帰っていい暮らしができるんですからね。そりゃ頑張って働きますよ」
「残業が無かったら文句言うって言うてましたからね。
それに、笑い話ですけど、休みの日にソフトボール大会を開いたらしいんですよ。親睦を深めようということで。お弁当付き、飲みものはジュース、ビールのみ放題。そしたら、集まってきたんはブラジル人の家族ばっかりで日本人の家族はほとんど来なかった。急きょソフトボール大会がサッカー大会に変更になったらしいんですよ」
「ははっ。
昔とは違いますからね。
休みの日まで会社の人間の顔は見たくないっていう気持ちもよくわかりますけどね。
国が豊かになることって本当に良いことなのか考えさせられますね」
社長は湯飲みに口をつけた。
「で、山田さんは、東京でのお仕事の経験もあるんですね?」
「はい、三年だけですけど」
「もう一度向こうでってのは如何ですか?」
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