羊
第3章 失意の中で
「いや、正直なところ、リフォーム会社言うたら、最近色んなことがあったから、なんかうさん臭いんちゃうんかなと思ってたんですよ。
せやけど、お話を聞かせてもらったら、そんなん全部吹き飛びましたわ」
すがすがしい気持ちだった。
久しぶりに他人といっぱい喋った。
やっぱり営業マンは喋ってなんぼや、そう思った。
駅ビルの地下で、コーヒー付き七百五十円の日替わり定食を食べ、地下鉄を二駅乗り継いで、三年前に一度倒産したスポーツ用具メーカーの説明会が行なわれるビルにたどり着いた。
ビルはオフィス街のど真中にある大手生命保険会社が保有する二十五階建てのビルで、さっきのリフォーム会社が入っていたビルとは雰囲気が大きく違った。
説明会会場に入ると、二人掛けの長机が縦に六列、横に三列並べられており、空いている席は一番後ろの真中の机の二席だけだった。
席に着いて前を見渡すと、最近若ハゲの人が増えてきたとは言え、全体の三分の一以上の人の頭の頂きが寂しい状態になっていた。
「予想以上のご応募のため説明会を開かせていただきます」
ネットにそう書かれていたのを思い出した。
昔は、テレビコマーシャルも流れていて、もし、街中を歩く人に聞くとほとんどの人が社名を知っていると答える企業とはいえ、三年前に一度倒産、破綻した会社である。
だから、先方も“予想以上”と言う言葉を使った。
テレビを見ていると、やたらと閣僚の先生方が「平成不況は今踊り場にさしかかっている」と言っているが本当だろうか。
踊り場にたどり着いたとしても「日本」と言う建物自体がずぶずぶと地盤沈下を起こしているような気がしてしょうがなかった。
説明会が始まった。
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