羊

完結
発行者:シュール
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ジャンル:その他

公開開始日:2010/09/05
最終更新日:---

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第3章 失意の中で

 駅の階段を上る太股とふくらはぎの張りはかなりましになった。
 しかし、十本の手の指の張りはまだしつこく残り、切符を買うとき財布の中から小銭を取り出すのに苦労した。
 受付で名前を告げると「そちらでお待ちください」とソファーを指差された。
 グループで申し込みに来たのか二十歳くらいの女の子達がきゃっきゃっきゃっきゃっと言って楽しそうに話していた。
 喫煙室と書かれた紙が貼ってある部屋を見つけたので胸のポケットに手を突っ込んだとき「六十二歳ですけど大丈夫ですか?」と男性の声がした。
 Gパンにジャンパー姿の俺と違い、きれいに折り目の付いたスラックスにブレザーを着た小綺麗な男性だった。

 説明会の会場に入る。
 スーツにネクタイ姿の男性が何人かいる。
 景気が良くなってきたと言っているがほんまなんかなと思いながら説明を聞く。
 時給七百五十円、夜勤でも千円には満たない。
「せやけど、あんたにはちょうどええで。
 葉書とか封筒くらいやったらか弱いあんたでも持てるやろ。
 それに、期間も一ヶ月やし、夜勤やから、昼間に面接とか入っても大丈夫やんか」
 妻はそう言っておれにこの仕事を勧めた。
 説明会が終わると、簡単な面接が行なわれた。
 履歴書も職務経歴書もない。
「山田さんは今何かお仕事を?」
 スーツの下にチョッキを着たいかにも公務員といった感じの俺と同い年くらいの男の人が聞いてきた。
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