羊
第1章 俺様・・・ハローワークにて
「十四社なんです。
それにこういっては何ですけど、山田さんは、今、三十八歳ですよね。」
「(それがどしてん?)ええ」
「全ての求人のうち95%が、三十五歳以下の方を対象としているんです。と言うことは、残りの5%から山田さんは仕事を見つけなければいけないんです。」
「(おまえ、俺の経歴書見たんか? その辺の失業者とは訳が違うんやぞ)そうなんですか」
「ですから、言葉は悪いですけど、下手な鉄砲じゃないですけど、どんどん応募していかないと・・・途中で気に入らないのなら断ってもいいんですよ、面接に行って話を聞くだけでも何かの足しになると思いますので、とにかくたくさん応募するようにしてください。 ちょっと、ご条件に見合った会社を検索してきますのでしばらくお待ちください」
言い残すと、古田は慌てるようにして去っていった。
「味噌もクソもいっしょにするなよ。
俺は、その辺で物乞いするようにして会社探してる人間とは訳が違んや」
吐き捨てるように一人ごち、全面ガラス張りの向こうに見えるスモッグで煙る大阪の街並を見下ろした。
「一度見てください」
息を切らして戻ってきた古田は紙の束を俺に渡した。
「なかなか消費財系のメーカー営業と言うのは求人自体少ないんですよ。あまり固執しないで、“営業”と言う括りでお捜しになったほうがいいと思います」
さすがに、飛び込み営業の歩合制の仕事や保険の勧誘員といったものはなかったが、おっ、と目を見張るようなものもなかった。
「如何ですか?」
「うーん、まあ、一回帰ってからよう検討しますわ」
「お受けになろうと思う会社がありましたらご連絡ください。お待ちしておりますので」
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