連立の命(れんりのいのち)
第5章 [《第5章》 第4章が2回入力したので、この章は無料です。
直人は、戸籍上の父親にすぎない。
雅治は自分は冷めているのかも知れないと思ったが、それほど父に固執してはいなかった。可愛がってもらった事も、ほとんど記憶にないのだから無理もないかもしれない。
実際直人にとっても同じだった。赤ん坊の時に抱っこした事はあったが、雅治が物心ついてからは、自分の子どもとして慈しんできた覚えがなかった。時々自分は何と冷たい人間なのだろうと思う事があった。
しかし、この手術を通して、直人の心に微妙な変化が起きていた。
手術後、雅治が麻酔から覚醒しなければどうしようかという、なんとも言えない不安に駆られた。
手術のたびに、患者が無事に覚醒するかどうかは心配になる。しかし、雅治の時は微妙に違っていた。直人はその時に、自分は雅治の父親である事を自覚したのかもしれない。
ずいぶんと時が経ってしまっている為、雅治に自分が父親である事を、いつ伝えれば良いのか迷っていた。その上、何と説明したら良いのか分からなかった。というより、伝えたときの雅治の反応が怖かったのだ。
美佳の時と同様に、自分の優柔不断さにうんざりしていた。
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