連立の命(れんりのいのち)
連立の命(れんりのいのち)
完結
発行者:桃子(とうこ)
価格:章別決済
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ジャンル:ミステリー・推理

公開開始日:2014/11/08
最終更新日:---

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連立の命(れんりのいのち) 第5章 [《第5章》 第4章が2回入力したので、この章は無料です。
「ねえ。先生どうしたの?」
「ごめん。ちょっと考え事をしてしまっていた」
 直人はそう言うのが精一杯だった。
「先生は、こんな話なんか信じないだろうけど、ちょうど本を読んでいる状態なんだ。早く続きが見たくて、毎日眠るのが楽しみなんだ」
 
 直人はもう何も言えなかった。もし、これが真実ならば、いずれ雅治は真実を知るのだろう。いや、なにをバカなことを考えているのか。現実にはあり得ない。直人は明らかに狼狽していた。

「雅治君は、その夢を信じているの? その……だれだっけ……男の子」
「パックスのこと?」
「……そう、パックスが君のドナーだと」
 直人は、パックスという名前を、口に出したくなかった。声にすると、喉が裂けてしまいそうになる。

「信じるとか信じないとか、そんな感じじゃないんだ。なんだかパックスという青年に、すごく親しみを感じるんだ。まるで、自分の体験を復習するみたいに。パックスにだけじゃなく、パックスの母さんにも、姉さんにも」

 此処まで聴いて、直人は立っていられなくなった。これ以上平静を装う事が出来なくなっていた。わざと、疲れた様子で壁に手を突いてやっと立っていた。内心は、自分の動揺が、雅治に気付かれないかドキドキしていた。

「そうか」
 直人は、不自然な笑みを浮かべて、そのまま何も言わずに部屋を出た。その様子が志保の時と同じように、ただごとではなくなっていた。
 
 雅治は、これが真実ではないにしても、真実に近い事だと確信した。
 そしてもう一つ、雅治が確信した事があった。不安でたまらなかった時、鏡を見てわざと笑顔を作り、母を心配させまいとしていた自分の顔に、直人の動揺を隠せなかった微笑がそっくりだったのだ。
 
 そう……直人先生が、自分の父親である事を、雅治はこの時同時に確信したのだった。
 しかし、今の雅治にとって、それは大した事ではなかった。直人が自分から、父親だと名乗らない限り、雅治にとっては、直人は自分の主治医でしかなかった。雅治が苦しい時、いつもそばにいて支えてくれたのは母だけであった。
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