連立の命(れんりのいのち)
第5章 [《第5章》 第4章が2回入力したので、この章は無料です。
しかし、何処から話し始めれば良いのだろう。何を話せばいいのだろう。いざ話そうと思うと、うまく言葉が出て来なかった。
「直人さんは、正夢とか、夢判断とか、夢で心を知らせるとか……そんなこと信じる?」
直人にはわけが分からなかった。美佳の精神がおかしくなりかけているのかと思った。
「えっ……夢? 僕はあまり夢を見ないから、考えたことがないけど、よく夢をみるの?」
「そうなの。会った事もない黒人の女の人の夢なの。多分雅治のドナーのお母さんだと思う。二人の子どもが次々にいなくなって、悲しくてどうにもならない……私に訴えているの」
「よく分からないけど、何度も見るの?」
「ええ、そう。でも、不思議とその人に対して、親近感があって自分の事のように思える。うまく言えないけど、会ってみたい。私のせいで苦しんでいる。私がこんな決断をしなければ、彼女はこんなに苦しむことはなかった。パックスを、失う事もなかった」
直人は、冷静だった。美佳の様子を、医者の目で見ていた。
(パニック障害か……)
仕方ないことだと思いながら、彼女の話を聞いていた。
「それなのに私が奪ったのよ。子どもの人生も、彼女の人生も。考えたら、私はいつも人を不幸にしている。直人さんの家族にだって……」
「それは、君だけの責任でゃないだろう……?」
美佳は直人の眼を、すがるようにじっと見つめ、再び話し出した。
「それは分かってる。私のことはどうでもいいの。彼女を助けたい。助けてあげたい。悲しみを少しでも癒してあげたいの。ねえ、直人さん。私はどうしたらいいの?」
支離滅裂で、何が何だか自分でも分からないのだから、直人が到底理解できない事も十分わかっていた。おかしくなっていると思われたとしても、今の美佳には話さずにはいられなかった。そうしなければ、本当に自分がおかしくなってしまいそうだったのだ。
直人は困惑していた。明らかに今の美佳はおかしかった。しかし、これが普通の人間の精神なのかも知れない。こんなに冷静でいられる自分のほうがおかしいのだ。それほどひどい事を、自分たちはしているのだ。
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