連立の命(れんりのいのち)
連立の命(れんりのいのち)
完結
発行者:桃子(とうこ)
価格:章別決済
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ジャンル:ミステリー・推理

公開開始日:2014/11/08
最終更新日:---

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連立の命(れんりのいのち) 第13章 《第13章》 最終章
「そんな時、パックスが夢を見せてくれました。夢の中で、僕はパックスになっていました。クルクルのカーリーヘア、カモシカのように長い脚をもった黒人の青年。綺麗なキラキラした瞳。その夢の中で、僕は生れてはじめて走ったのです。風を切って全力疾走。気持ちよかった。走った後、息が切れてゼイゼイ言いながらも、呼吸は徐々に落ち着いていきました。身体中気怠かったのですが、気分は爽快でした。こんな経験は、健康な人なら誰もが体験する事なのでしょうが、僕には初めての経験でした。感動しました」
 報道陣は、雅治の次の言葉を待った。

「僕はこの時『今は苦しくても移植に成功したんだ。僕はこれから、こんな風に走れるかもしれない』そう思いました。そしてパックスは、この時僕にこう言いました。『生きるんだ。生きて僕の母さんに会いに行くんだ。それが君の償いだ』と」
 雅治の背中を撫でるマイラの手が一瞬止まった。そして、彼女の悲しみが、彼女の手から雅治の背中に伝わった。
 雅治は続けた。

「少しずつ、少しずつ、パックスは僕が真実を知るように夢を見せてくれました。その夢は、毎日続くのです。まるで小説を読むように。いろんな経験もまた、パックスは僕にさせてくれました。何時しか僕は、夢を見る事が楽しく、ワクワクするようになって行きました」
 小部屋に居た人たちも、報道陣も、雅治の次の言葉を探していた。

「そして、さっきの質問ですが……」
 皆息を呑んだ。

「この胸の中から、すぐにでも取り出して、パックスに返してあげたかった。パックスの掛け替えのない人生を、彼に返してあげたかったです……」
 そこまで言って、雅治は声にならなくなった。
 この時報道陣には、雅治の言いたい事が痛いほどわかった。そして、さっき質問した報道者が、再び声をあげた。

「雅治。ごめんなさい。僕は残酷な事を聞いてしまった。でも、君のパックスに対する何だろうか……。兄弟でもない、友人でもないが、君の気持ちが分かるような気がするんだ。もういいよ。その事はもういいよ……」

 そう言って、その報道者は泣き出してしまった。
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