連立の命(れんりのいのち)
第12章 《第12章》
看護師は鉢植えをよけながら、マイラをマリー医師の元へ、そして三人をソファーに誘導してくれた。
「まったく、この部屋は気持ちがいいのだけれど、車椅子を誘導するのは一苦労なの。まるで、ジャングルの中をさまよっているような気持ちになるわ!」
そう言いながらもその看護師は、この部屋に来るのが楽しそうであった。
看護師の様子を微笑みながら見ていたマリー医師は、マイラの方へ優しい穏やかな視線を送った。
「マイラ、やっと雅治と倖が来てくれたのね。良かった。本当に良かった……」
マリー医師はマイラにそう言うと、涙を流した。
マイラは二人を自分の元へ手招きで呼び、マリー医師の手をとりこう言った。
「先生。紹介します。この二人が、私の息子と娘です。名前はと容姿は変わってしまったけれど、この二人は、私の子どもたちに間違いありません。私、先生が言われたように、今まで生きていて本当に良かった」
マリー医師は、二人にソファーに腰掛けるように促した。そして自分はマイラの車いすを押し、ソファーの横に就け、自分は床に跪いた。そして、二人の手をとると、こう言った。
「雅治も倖も、長旅は疲れたでしょう。ここに来るには、かなりの勇気が必要だったのではありませんか?」
倖は、マリー医師の暖かな言葉を聞いて又涙を流した。そして、雅治は一呼吸おいて、ゆっくり話し始めた。
「何処から話せばいいか分らないのですが、僕たちの事件が、平和に暮らしていた一つの家庭を壊してしまい、将来に夢や希望を抱いて生きていた、大切な命を奪ってしまいました」
少し言葉に詰まった雅治は、深呼吸をした。そして再びゆっくり話を続けた。
「出来るなら、今すぐにこの心臓を取り出して、パックスとユンカに帰してあげたい。でも、この事実は消せないし、元に戻す事も出来ません。そのことで、姉さんも僕も苦しみました。母や、父を恨んだことも正直ありました。でも、そのたびに、パックスとユンカが僕たちを励まし、戒めてくれたのです。時には、傷ついた心を癒してくれることもありました」
雅治は、移植当時、辛い拒絶反応を起こした時の話を、マリー医師に話して聞かせた。
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