連立の命(れんりのいのち)
第12章 《第12章》
マイラはたまらくなって、ハラハラと泣き出した。
「ユンカ、パックス。辛かったね。痛かったね。助けてあげられずにごめんなさい。でも、母さんは、しっかり生きて行くからね。二人に会えたから、もう大丈夫だから。雅治と倖の中で、しっかり生きて行くんだよ。母さんは大丈夫だから」
ムンカも泣いていた。何という優しい人間なのだろう。自分なら許せるだろうか。いや、きっとこんな風に許す事は出来ないだろう。いまさらながらに、ムンカはマイラの優しさと、尋常ではない人間愛に言い知れぬ感動を覚えていた。
しかし、ムンカはのんびりしてはいられない事に気付いた。マイラをこの病院から出してやらなければいけない。それが、此処に強制入院させてしまった自分の使命だと思っていた。
「マイラ。あなたの主治医はどなたなの?」
「マリー先生よ。でも、心配しなくても大丈夫。マリー先生は、きちんと私の話を聞いてくださっているから。パックスとユンカの夢の話も以前から詳しくしているのよ」
マイラの主治医であるマリー医師は、精神科医であり、南アフリカでは統合失調症の有名な医師であった。現在マリー医師は、統合失調症だと診断された患者の全てが、統合失調症だとは限らないと主張していた。
マリー先生は毎日毎日マイラの話を、根気強く聞いてくれた。マイラは、パックスとユンカがいなくなり、死にたいと思いながら暮らしていた。しかし、マリー先生に出会ってからは、その気持ちが徐々に溶けていった。
もし、この病院に強制入院させられマリー先生と出会わなければ、雅治や倖と、こんな風に穏やかに出会う事は出来なかったかもしれない。
マリー先生は、真剣に話を聞いてくれるだけではなく、マイラの話を疑う事をしなかった。
しかし、マリー先生に会ったことのないムンカは、マイラの話を聞いても、直接会って自分で話をしなければ、どうしても自分の責任を果たす事が出来ないように思えた。
「マイラ、とにかく私をマリー先生に会わせてくれないかしら。どうやら、あわてて貴方を連れて帰る必要のない事は分ったけれど、この真実をきちんと話さなければいけないと思うの」
「そうね。私もそう思う。雅治や倖にも、マリー先生に会って欲しいし」
マイラは、にっこりほほ笑んでそう答えた。
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