連立の命(れんりのいのち)
連立の命(れんりのいのち)
完結
発行者:桃子(とうこ)
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ジャンル:ミステリー・推理

公開開始日:2014/11/08
最終更新日:---

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連立の命(れんりのいのち) 第12章 《第12章》
「よくわからないけど。いいわ、私は付いて行くから。でも、まるで自分が生まれた場所のような気がする。私は、余り街の夢は見ていないんだけど……不思議だわ……」

 本当に不思議だった。何かに導かれるように二人は歩いていた。初めての街。それも日本ではない遠い国。それなのにこの温かくて懐かしい、優しい気持ちはどこから来るのだろう。まるで故郷に帰ってきたような、わくわくしてくるような不思議な安堵感。言葉で表すのは難しいが、とにかくやっと帰ってきたというような心地よさに、二人は満たされていたのだ。

 夢の中のパックスは、黒い肌とカーリーヘアの黒人の青年だった。カモシカのように長い脚、きらきらした綺麗な瞳は、まるで宝石のように美しかった。

 だが、今ここに会いに来たのは、当然のことだがパックスではない。パックスの家に近づくに従って、雅治は段々不安になってきた。本当に自分はパックスの母親に会う資格があるのだろうか。自分はパックスのように純真な人間なのだろうか。母親が自分を見て、がっかりしないだろうか……

 倖も同じだった。自分は果して、ユンカのように優しい娘なのだろうか。ユンカと違う肌の色を見て、ユンカの母親は悲しまないだろうか。出来ることなら、このまま黒人の女性になって、お母さんの前に行きたかった。少しでも、ユンカに近づきたかったのだ。

 雅治と倖の歩調は、少しずつゆっくりになって行った。

 いつの間にか周りの建物は、一ブロック前とは大きく様相が変わっていた。豪華なビル群はなくなり、代わりにトタン屋根の小屋が目立つようになってきた。雅治と倖は、そこで立ち止まった。日本では見ることのない光景がそこにはあった。

 公園らしき空き地はゴミの山をなし、その山の上で黒人の子どもやインド系のこども、さらに白人の子どもたちが遊んでいる。その子たちは一様に痩せていて、服装は埃だらけになっていた。雅治はパックスが夢の中で言っていた事を思い出した。

「アパルトヘイトが終焉をむかえ、僕たちの生活も楽になると思っていたのに」と。

 しかし実際の生活は楽になるどころか、悪化していったのだろう。確かにこのゴミの山で遊ぶ子どもたちを見ると、様々な人種の人たちが融合しているのだろう。
 
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