連立の命(れんりのいのち)
連立の命(れんりのいのち)
完結
発行者:桃子(とうこ)
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ジャンル:ミステリー・推理

公開開始日:2014/11/08
最終更新日:---

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連立の命(れんりのいのち) 第11章 《第11章》
 そう言って振り返ると、倖は話を聞きながら泣いていた。その大きな眼からは、綺麗な涙があふれて止まらなかった。

 手術室から出てきた娘をみてパニックになった母親から、娘を返してと言われ、何も言えず、ただ一緒に泣いていた自分を思い出していた。
 ドナーの家族は、どれ程傷つき、悲嘆に暮れた毎日を、その後送っているのかを、幸は痛いいほど知っていた。

 一時期は仕事が出来なくなり、心療内科に入院したことも思い出した。その時始めて見たユンカの夢。夢の中で自分を励ましてくれたユンカ。

 雅治も倖と同じようにドナーのパックスに励まされ、立ち直った。
  心臓移植は、その人の心や人生までも移植することに等しいのだと倖は確信していた。だからこそ、そのドナーの悔しさと、夢を背負って生きて行かねばならないと倖は自分に言い聞かせていたのだ。

 その時から倖は、絶対に弱音を吐かなくなっていた。自分の命は二人分。だから、人の二倍頑張らなければならない。でも、きっと幸せも二倍来る。そう信じていた。

 その後ドナーの家族と面談する時は、自分の正直な気持ちと、どれほど毎日ドナーに感謝して生きているのかを、ゆっくり時間をかけて話すことにした。そうすることで、ドナーの家族は少しずつ立ち直っていく。
 そして最後には、クライエントの人生がどうぞ幸せなものでありますようにと祈るようになっていく。ドナーの家族とクライエントには、決してお互いの情報は流れない。

 しかしそこには、ドナーの家族の悲しみと、クライエントの感謝の気持ちが、ベートーベンの第九のように流れ、混じり合って激しく交錯する。
 そしてその激しく不安定なメロディーは、やがて小川のせせらぎのように穏やかなシンフォニーに変化して行くのだ。

 そんなドナーの家族とのやり取りを繰り返すうちに、倖なりのドナーの家族に対する姿勢を確立して行ったのだ。

 そして幸は思っていた。いつか自分たちの数奇な運命を、きちんと世界に向けて話さなければいけないと。自分たちの使命はそこにあるのではないかと言う事を、幸はだんだん強く感じるようになっていた。
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