連立の命(れんりのいのち)
第11章 《第11章》
今が一番良い時期ではないかと考え、西和田は倖に告げることにした。
「吉行くん。実はこの間から君に言わなければならないことがあったんだが、なかなか言い出せなかった。ちょうどよい機会だから、今日伝えようと思う」
倖は、何を言われるのだろうと、ドキドキしながら西和田の表情を窺がっていた。
「何でしょうか。わたし、何かとんでもないことをしたのでしょうか。また、ドナーの母親からクレームや何かがあったのでしょうか」
倖は、以前の苦しい体験を思い出し、大切な心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じた。
「いや、そういうことではないよ。安心してくれ。実は、君も知っている新庄健太議員から要請があったんだ。君に国家移植倫理検討チームに入ってほしいそうだ。もちろん試験や面接はきちんとされるそうだが、どうしても心理カウンセラーとしての君がほしいらしい。君は心臓移植のクライエントでもあり、こんなに頑張って心理カウンセラーの資格も取った。何よりも君の感性に新庄さんは惚れ込んだそうだ」
倖はすぐに事の次第が理解できず、キョトンと首を傾げていた。
「どういうことですか」
西和田は諭すように、ゆっくりとした口調で倖に説明を始めた。
「新庄議員は、悠一君から聞いたそうだ。君たち三人が、移植は単なる命のリレーなんかじゃないと、世間の冷たい視線を浴びてでも、きちんと国民に訴えたいと言っていたことを。素晴らしいじゃないか。移植はドナーの人生を丸ごと引き受けることだって。ドナーからもらった大切な人生を、その後の自分がどのように生きるかしっかり考え、負けたらいけないって。そう言っていたそうだね。新庄さんは、本当はテレビの前で三人に堂々とその話をさせてあげたかったと言っていたよ」
倖は、西和田の言葉を噛み締めるように真剣に聞いていた。
「そうだったのですか」
西和田は、少し窓の方に歩き、わざと外を眺めながら再び話を始めた。
「新庄議員は、不法な移植を受けて死んでしまいたい。今すぐに心臓を取り出して返してあげたいと言って泣いていた君たち義姉弟に、心底話させてあげたいと思ったそうだ。そして、どうか胸を張って生きて行ってほしい。しっかり前を向いて、生きてほしいとずっと願ってこの八年間待っていたそうだよ」
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