連立の命(れんりのいのち)
第9章 [《第9章》
二人は倖の部屋の前で大きく深呼吸してドアをノックした。
中から、聞きなれた倖の声がした。
「どうぞ……」
悠一と雅治は出来るだけ明るい声で倖の部屋に入って行った。
「倖ちゃん来たよ」
倖は、病室に入ってきた二人の顔を見て表情がパッと明るくなった。そして、読んでいた本を閉じ二人に言った。
「悠一君、雅治君、来てくれたのね。ありがとう」
悠一は、そんな倖を見てホッとした。
「倖ちゃん思ったより、元気そうで安心したよ」
まさにそのとおりだった。もっと憔悴しきって痩せている倖を想像していたが、何故かこの間より、ふっくらして顔色も良くなったように思えた。
「随分気分が良くなったの。考えるだけ考えて、泣くだけ泣いたら、何だか気分が逆にすっきりしたみたい。不思議だけど、少し落ち着いたみたい」
「よかった。僕たちも大学にはまだ行く気にならないんだけど、ずいぶん気持ちが楽になって来たんだ。人間って結構強い生き物なんだね」
この時悠一は、倖の表情に少しばかりの変化があることに気がついた。
「倖ちゃん何かあった? 何だか様子が少し違うような気がする。この間会った時は、コーディネーターの仕事はもう出来ないと言って、とても辛そうだったから」
「悠一君は、私の事みーんなお見通しね」
「当たりかい?」
倖は、悠一が自分の事を本当に気にとめてくれているのだと思うと嬉しかった。
「当たりよ! 最近、朝起きると気分がとてもいいの。少し前までは、なかなか眠れなくて、睡眠剤を毎日飲んでいたの。そしたらよけいにリズムがおかしくなって、どうにもならなくなったの。お父さんも心配して、何処か田舎に療養に行くかって……」
「で、どうして気分が良くなったの?」
倖は、話したくて仕方がないというように、少し興奮した声で話しだした。
「それがね、信じてくれるかどうか分からないんだけど……私、夢の中で動物相手の仕事をしてるの」
悠一と雅治は顔を見合わせた。
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