小説「新・ヒトツノヒ」完全版 第一部 「沙羅と純の革命闘争編」
第5章 第4章 北国の短い真夏
「あたしの実家は地元では有名なリンゴの倉庫会社なの。
いわば、あたしは『社長令嬢』か『お嬢様』ってところかな?
だけど、そんな家は窮屈で、大学入っても門限が厳しくてね・・・。
そんな時に、ここのH大学でサークルの人たちに会って、自分の考えや価値観が大きく変わったと思うの」
「『ここのH大学』って、沙羅さんはH大じゃないの?」
中村の言葉に、黙って首を横に振る沙羅。
「あたしはH家政大学よ・・・」
H家政大学は、国立H大学の近所にある無名の私立大学である。
これは中村が初めて知った事実であった・・・。
「あなたも教員志望なのですか?」
しばしの沈黙の後に、沙羅に訊く中村。
「一応、希望はしているわ・・・。
それより、今日ここへ来たのは、あなたに手伝ってほしい事があってよ・・・」
いつものジーパン姿と違い、こういうスカートの沙羅はどこか女らしさが漂っていて、中村には全く別人に見えた。
「組織員拡大の為に、ステッカー貼り闘争をこのH市全市でおこなう事になったの。
日時は9月の予定で、日程は未定よ。
言っておくけど、あたしがこういう格好で来たのも、敵権力の目をごまかすためよ。
電話じゃ盗聴されるから、直接来たというわけ!!」
しかし、こういう組織に関する話をする時の沙羅は、目だけは男のようにキリリと鋭かった。
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