壱の魔術
第1章 第1章 プロローグ
4月5日火曜日。春休みが終わったころ、花粉症に俺は悩まされることなく、ほぼ健康だった。ほぼと言ったのは、今日という日がだるいからだ。春といったら、何を連想(れんそう)できるだろうか。ふとそんなことを考えたことがある。春色(しゅんしょく)と言えば、桜のピンクだ。そして、なにより、高校1年生になりたての俺には、入学式(にゅうがくしき)という小イベントがあったりする。
天気は決して晴れではなく、かといって雨がふりそうなぐらい雲があるわけでもない。微妙な天気だ。そんな日にこの西風高校(せいふうこうこう)の入学式をやるんだ。正直、快晴(かいせい)が良かったな。
それで、この彼女いない暦16年のあーかわいそーな俺、加納ハジメは俺の中学生の時からの友人のモテモテ湯川シン(ゆかわしん)とともに西風高までの道のりを早足で歩いていた。シンは昔と変わらないニヤケ顔をこちらに突如(とつじょ)向けてきた。顔、近いぞー。
「これからの高校生活が楽しみですね」
「そうだな」
「おや、意外ですね」
俺は少し怪訝(けげん)そうな顔で、
「何が?」
「だってあなたは本当は西風高よりも南高にいきたかった、と受験後におっしゃっていたではありませんか」
俺はシンがペンギンが飛んだのを目撃(もくげき)した時のようなわざとらしい驚き方をうんざりと見つつ、足をさらに速めた。
シンはふふふと微笑しながらついてきた。受験の時に?そんなもん忘れた。
俺は今が平和で楽しく過ごせりゃそれでいいのさ。そう、日常が超常(ちょうじょう)にさえならなければな。まあ、超常になるなんてことは、よほどのことがなけりゃまずないがな。
しかしこの時俺は小さい頃、油断(ゆだん)は大敵だと親父に言われてきていたんだが油断していた。
だが、普通はあんなことを事前(じぜん)に防ぐことなど出来ない。出来たならその人を神(ゴッド)と読んでもいい。
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