桜花飛翔
第1章 芽生える桜―wakes up―
潮風が栗色の長い髪を撫でる。
少し花を開いた桜が突風でその薄紅色の花を散らす。それは少女を包み込むように舞い、海へと降りた。透明に近い海水を薄紅色が染めていく。
少女は静かにその中へ歩み行く。何処か儚げで、異様に白い肌が少女をこの世の者では無い様な錯覚を引き起こす。
まだ冷たい海水が少女の体から体温を奪う。
それでも歩みを止めず、気付けば肩まで海水に埋もれていた。虚ろで何も映さない茶色の瞳。長い髪が水の中で優雅に踊る。水面が鼻の下まで来た。怖いなど感じない。感じるのは水の冷たさだけ。新たに一歩踏み出した瞬間、少女は海の中に吸い込まれる様に海面から姿を消した。
海底がいきなり深くなったのだ。
少女は足掻く事もせず、水に体を委ねる。息が口から漏れた。少女は薄れ行く意識の中で何かを呟き、頭上に見える海面へ腕を伸ばす。足掻こうと思ったが既に時遅く、海底に背が付いた。
砂埃が巻き起こり海面が見えなくなる。魚が少女の周りから遠ざかっていく。
(あたし……死ぬんだ……やっと)
海水とは違う物が目から零れた気がした。ゆっくり目を閉じる。先ほどまで作られていた泡が無くなり、口元は微かに笑みを浮かべ動かなくなった。
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