Pure Heart~葵とケンの物語~
第11章 暗闇
「この状況におもしろさなんて全く必要ないと思います」
「おもしろくねぇよりおもしろい方が楽しいじゃん」
「……意味が全く分かりません」
「いいじゃん!! 行こうぜ、焼肉!!」
……この人、やっぱりよく分からない。
完全に駄々っ子になったケンさんを上手く宥める気力なんて当然私には無く
「そのお店ってスープとかあります?」
結局、私が折れる羽目になってしまった。
「おう、もちろんあるぞ。お勧めはテールスープだ」
「じゃあ、私はそれで」
「行くか?」
「お肉とかは絶対食べれませんよ」
「分かった。そうと決まれば行こうぜ」
ケンさんは素早い動きで立ち上がるとまだベンチに座っている私の手首に手を伸ばした。
ケンさんが掴もうとしたのは、あの日アツシに強く掴まれたところ。
私は不意にその時の事を思い出し、無意識のうちに身体を強ばらせた。
手首に痛みは残っていない。
痣だってパッと見ただけじゃ分からないくらいに薄くなっている。
残っているのは私の記憶の中だけ……。
だから私の気の所為かもしれないけど、伸びてきたケンさんの手は私の手首に触れようとした瞬間、その
動きを止めたような気がした。
それが故意なのか偶然なのか分からないのは、本当に一瞬のことだったから。
次の瞬間、ケンさんの手はまるで壊れやすいものを扱うかのように私の手首を包み込んでいた。
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