コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第16章 言葉と想い
この病院は、この階が最上階でこの上には屋上しかない。
屋上になら非常階段から行けるかも知れない。
そう思った私はナースステーションとは反対の方向に走り出した。
緑色の看板を目印に私は重い鉄のドアを身体で押し開けた。
大きな音が響かないようにそのドアを閉め、階段を駆け上がる。
そして、見えたドア。
鍵が閉まっていませんように!!
祈りながらドアノブを廻すと――……
いとも簡単にそのドアは開いた。
院内に漂う、篭ったような空気とは違い、新鮮な空気が私を包み込み、爽やかな風が頬を撫でる
私は開いたドアの隙間から屋上に出ると、キョロキョロとその姿を探した。
電灯もない薄暗い屋上。
だけど、そこは真っ暗じゃなかった。
目の前に広がる街の灯りが屋上を淡くそこを照らし出していた。
その灯りの中、佇む人影を私は難なく見つけることができた。
手すりが交じり合うちょうど角の部分。
そこに、ヒカルは身体を預けるようにもたれて、一望できる街並みを見下ろしていた。
手すりに置かれたヒカルの右手にはタバコが持たれていて、煙が登っていた。
そして、左側には点滴がぶら下がっているバーがある。
やっぱり、タバコを吸う為にここまで来たんだ。
ヒカルがここにいたことにホッと胸を撫で下ろすと同時に私は呆れてしまった。
……この人は……。
絶対安静中なのに、そこまでしてタバコが吸いたかったんだろうか?
小さな溜息を吐いて、私はその人影に近付いた。
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