コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第16章 言葉と想い
……ってことは
ヒカルは点滴をつけたままどこかに行ったんだ。
私はヒカルが寝ていたはずのベッドに触れてみた。
まだ、温かい。
それは、ヒカルがついさっきまでここにいた事を証明していた。
その時、ふと脳裏を過ぎったのは、あのゲームセンターでタバコを吸っていたヒカルの姿だった。
もしかして、微かな予感を感じた私は病室を出た。
非常灯の明りだけが点いている薄暗い廊下。
エレベーターの前にあるナースステーションだけが明るすぎるくらいに明るかった。
……えっと、タバコを吸える場所は……。
ここは病院だからタバコを吸える場所も限られている。
確か、院内には喫煙所はない。
タバコが吸えるのは正面玄関を出てすぐにあるプレハブの喫煙所。
でも、ヒカルがそこに行くとは到底思えない。
だって、ヒカルの歳はナースステーションにいる看護士さんみんなが知っているはずだし、絶対安静中のヒカルが点滴をぶら下げているバーをガラガラ引いてナースステーションの前を通れば看護士さん達だって気付くに違いない。
そんな所をわざわざ通ってヒカルがタバコを吸いに行くなんて私には到底、考えられなかった。
別に、ヒカルがタバコを吸う為に病室を抜け出したと100%決まった訳じゃないんだけど
私にはそれしか思いつかなかった。
他に、タバコが吸える場所は……
しかも、エレベーターを使わずに行ける場所って……。
……。
……。
あっ!!
屋上!!
98