コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第13章 喧嘩
葉月ちゃんの言葉に私は嫌な予感を感じた。
だけど、その予感よりも私の中で興味の方が断然大きくなっていた。
「う……うん。分かった」
私が何度もコクコクと頷いたのを確認してから、2人は再び前へと進み始めた。
足音が響かないように、忍び足で歩く2人は明らかに挙動不審な感じだった。
でも、そうしないといけないような気がした私も、2人と同じように足音が響かないように忍び足で着いて行った。
もう幾つの角を曲がったのか分からないくらいに角を曲がった時、微かに人の声みたいなものが聞こえてきた。
……?
誰かが話してるの?
そう思ったけど……
その声が怒鳴り声だって気付くのにそう時間は掛からなかった。
前に進むに連れて、その声は次第に大きくなる。
再び、足を止めた桃香ちゃんと葉月ちゃんが私に小さく手招きをした。
高鳴る鼓動を必死で抑え、私は2人に近付いた。
こっそりと覗き込んだその先には信じられないような光景が私を待ち受けていた。
殴り合う男の子達。
飛び交う怒声。
耳を塞ぎたくなるような鈍い音。
漂う鉄のような匂い。
苦しそうな呻き声。
そんな地獄のような光景の中で、私はその人の姿を見つけてしまった。
「……ヒカル……」
揉み合う男たちの中心にいたのは、紛れもなくヒカルだった。
冷たく鋭い眼をしたヒカル。
全身からは威圧感と苛立ちを纏った雰囲気を放出していた。
……そこにいたヒカルは私が知らないヒカルだった……。
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