コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第10章 変貌
『この前の話。近いうちに返事しろよ』
「……」
『それから、そんなに心配しなくても俺達はお前の女まで狙ったりしねぇーから安心しろ』
「……」
『じゃあな』
それは短い会話だった。
そのやり取りの最中、ヒカルは一度も口を開く事はなかった。
その所為か会話と言うにはあまりにも一方的なものに感じた。
そして、その会話の内容は私には全く理解できないものだった。
◆◆◆◆◆
「アユちゃん、おかえり!!」
教室に戻ると、亜子ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「ただいま」
「どう?話せた?」
その質問に私は一瞬迷った。
正直に言うべきかな。
……結局、私はヒカルと殆ど話せなかった。
あの後、幾つかの足音が遠ざかって行くとヒカルは私を自分の身体から引き離した。
「ヒカル?」
「俺にはもう近付くな」
ヒカルはそれだけ言い残すと、足早に階段を駆け下りていった。
「ちょっ!! ヒカル!?」
私は、ヒカルを呼び止めようとしたけど
ヒカルは、足を止める事も、振り返ることもなかった。
「あゆちゃん、どうしたの?」
亜子ちゃんが不思議そうに首を傾げていた。
「ううん、なんでもないよ」
そう言って私は自分の席に腰を下ろした。
「それで?話せたの?」
「うん」
52