コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第9章 入学式
「アユ~!! 急がないと遅刻するわよ~!!」
階下からママの声が響いてくる。
私は姿見の鏡の前で赤いネクタイをキュッと締めた。
「は~い!! 今、降りる!!」
そう答えて、私はもう一度全身をチェックして、真新しいカバンを持ち部屋を出た。
今日は、聖鈴の入学式。
私は、いつにも増して清々しい気分だった。
「パパ、ママ、おはよう!!」
リビングのドアを開けると、スーツ姿のパパとママがダイニングテーブルに座っていた。
2人とも、私を見ると嬉しそうに瞳を細めた。
「よく似合っているよ」
パパが照れくさそうに褒めてくれた。
「ほら、アユ、早くごはん食べちゃいなさい。あっ!! 飲み物とってこなきゃ!!」
そう言ってキッチンに立ったママはこっそり涙を拭っていた。
そんな2人に私は胸がいっぱいになった。
「……ありがとうございました……」
2人に小さな声で呟いて
「いただきます」
その言葉を隠すように私は両手を合わせた。
感謝の気持ちは言葉では言い表せないくらいにある。
……だけど、それを言葉にするのはちょっとだけ照れくさかったから。
でも、私の小さな感謝の気持ちはパパとママにもちゃんと伝わったらしく。
2人は顔を見合わせて小さな笑いを零していた。
◆◆◆◆◆
その日、パパとママと私は揃って家を出た。
「ごめんな、アユ。入学式に行けなくて」
「もう、いいってば。仕事なんだから仕方ないじゃん」
「そうなんだけど」
「大丈夫だって、ママがちゃんと来てくれるんだし」
「そうか?」
「うん!! 大丈夫、大丈夫」
申し訳なさそうに肩を落とすパパの背中を私はバシバシと叩いた。
「ママ、撮影は頼んだよ」
「はいはい、分かっていますよ」
ママも苦笑気味だった。
そんなパパと駅で別れ、私とママはバスで聖鈴へと向かった。
バスの車内には聖鈴の制服を着た生徒がたくさんいた。
そこで、私はヒカルの姿を探したけど
残念ながらそのバスにはヒカルは乗っていなかった。
私は小さな溜息を漏らした。
その溜息はあの日の溜息と同じ。
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