コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第2章 出逢い
私がヒカルと初めて逢ったのは、寒くてたまらない冬が終わりに近付き、春の訪れを感じる頃だった。
私の隣に大きなお家が建ち始めたのはお正月を過ぎてすぐだった。
ずっと空き地だったそこは私の遊び場だった。
ある日突然、“立入禁止”の札が立てられ、誰も入れないようにロープが張られていた。
幼稚園から帰ってきてそれを発見した私はとても悲しくなった。
急いで家に帰った私は大泣きをしてママを困らせた。
そんな私にママは、宥めるように教えてくれた。
「アユ、お隣にはお家が建つのよ」
「お家?」
「そう、お家。そのお家が完成したらアユのお友達がお引越ししてくるの」
「えっ!?お友達が!?」
「うん、アユと同じ歳の男の子だって」
「本当!?」
「えぇ、本当よ。お友達のお家が建つんだからアユは我慢できるよね?」
「うん!!アユ、我慢する!!」
その日から私の日課は、空き地で遊ぶ事じゃなくて、空き地に建つ家を眺める事になった。
少しずつ家の形になっていくそれを眺めながら、私は“同じ歳の男の子”がどんな子なのか想像を膨らませていた。
そして、3月の終わりに家は完成した。
お城みたいに大きなお家。
そこに引っ越して来たのがヒカル達家族だった。
お天気のいい暖かい日曜日。
私は、外から聞こえてくるエンジンの音で目を覚ました。
カーテンを開け、外を見ると大きなトラックが隣の家の前にたくさん停まっていた。
あっ!!お友達がお引越ししてきた!!
そう思った私は、ダッシュで階段を駆け下りた。
「あら、アユ、おはよう」
ママの声が聞こえたけど、私はママの横を走り抜け玄関へと向かおうとした。
「えっ!?アユ!?待ちなさい!!どこに行くの!?」
「お友達がお引越ししてきたの!!」
靴を履く時間すらもったいない気がして、ママのサンダルを足に引っ掛けて外に出ようとした私は、玄関のドアを開けた瞬間に、パパに抱き上げられた。
「もう!!急いでるのに!!」
頬を膨らませる私をパパとママは困ったような笑顔で見つめていた。
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