コトダマ~The Story of Ayu & Hikaru~
第20章 迷いと決断
ようやく涙も止まりちょっとだけ落ち着きを取り戻した私はヒカルの胸に顔を埋めたまま呼びかけた。
「うん?」
「ありがとう」
「あぁ」
本当はちゃんとヒカルの顔を見てお礼を言いたかったけど
それは、できなかった。
泣きすぎた所為で自分の顔が大変なことになっていることは安易に想像できたし
今、ヒカルの顔を見るのはちょっとだけ照れくさかったから
だから、私はヒカルの胸に顔を埋めたまま尋ねた。
「ヒカルはどうするの?」
「俺?」
「うん、ヒカルも誘われているんでしょ?」
「あぁ」
「そっちのチームに移るの?」
「……」
ヒカルは何も答えなかった。
……ううん、答えないんじゃなくて、答えられなかったのかもしれない。
これは、今すぐに答えが出せる問題じゃない。
ヒカルが答えを出す為には時間が必要なのかもしれない。
「ゆっくり考えなよ。」
「……」
「ヒカルがどんな答えを出したとしても、私はずっとヒカルの傍にいるから」
「……」
ヒカルは何も言わなかったけど……。
その代わりに私の身体を抱きしめる腕にギュッと力を込めた。
……ねぇ、ヒカル……。
あの時、ヒカルの心の中では、すでに答えは決まっていたのかもしれないね。
すぐに、答えを口にする事ができなかったのは、ヒカルの中でシュウさんへの気持ちの整理がついていなかったから……。
ヒカルにとってシュウさんの存在は私が思う以上に偉大で大切な存在だったのかもしれません。
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