訪問者 ―visitor―
第5章 last competition
「健吾君も今回の結果は予想してはいたのよね」
「そうだな」
間違いなく予想していた。いや、確信していたといってもいい。事実として周りにもそう言っていたのだ。
「No.1になれそうもない、IHに出られそうもない。でも全力を尽くし、本気で悔しがる。私達の基準で言えば愚かな筈のその姿がなにか……そう、何かを感じさせたの」
沙綾が健吾の瞳をまっすぐに見ながら語る。論理的に考えるなら確かに愚かな行為なのだろう、健吾やIHに出られなかった他の選手達の行いは。しかし決して愚かな行為ではない。地球人なら多くの人がそう思う事だろう。だが論理が全てのマルクト人は、そうではないのだった。
「マルクト人なら、自分がNo.1から程遠いと分かっている事は決してやらないわ、初めから。だって効率が悪い上に大した成果も望めないもの。なのに貴方達は皆――どうしてあんなに頑張るの? そしてどうしてそれを見ている私達の……」
沙綾が言葉を選んでいる。戸惑っているのかもしれない。そんな沙綾の姿を、健吾は初めて目にしているのだった。沙綾はいつも聡明で、自分のように逡巡したり戸惑ったりする事はないだろうと勝手に思い込んでいた。それがこんな姿を見せようとは、信じられない思いだった。
「……そう、貴方達の報われない筈の努力は何故、私の感情――いいえ、心を揺さぶるの?」
感情。心。考えてみれば沙綾が初めて口にした言葉かもしれない。少なくとも健吾の前では。そしてその言葉を口にするのを、沙綾はひどく躊躇っているようだった。きっと論理が全ての惑星では、感情や心といった物を低く見る傾向があるのかもしれない――そんな事を健吾は漠然と考えていた。
「何故とか聞かれても困るな、それが目的じゃねぇんだし。強いて言えば……」
「言えば?」
沙綾が僅かに踏み出して聞き返す。それも珍しい事だった。今夜の沙綾は異例尽くしだ。
「強いて言えば、それが『感動』ってやつじゃねぇの? ちょっと……照れ臭ぇけどな」
「感動……これが……?」
54