vol.2「亜美通信」7月特大号
第1章 桜井亜美から極彩色のトキメキをお届けします!
誰もが言う。
結婚する時は、昔の彼からもらったプレゼントや一緒に撮った写真は捨て
るのがルール。もし夫に見られたらまだ忘れられないのだと疑われて絶対
気きま ずくなるから、トラブルの種は早めに捨てるに限る、と。
あたしがそのルールを破ったのにはちゃんと理由がある。
あたしはまだフジが好きだ。
好きで好きで好きで、どうしようもなく好きだ。
10年の長い時間、ずっとフジだけを見つめて生きていた。
世界の真ん中にはいつもフジがいた。
なのに他の人と結婚したのは、あの時、それしか怒りと悔しさと淋し
さを癒す方法がなかったから。フジが妊娠させてしまった相手を冷血
に捨てるなんてできない性格だとよく分かっていた。
たとえフジがあたしを一番に考えていてくれたとしても。
だから、一生、傷痕が膿むような惨めな思いをする状況からハ
ギとの結婚という方法で逃げたのだ。
つまり最悪の卑怯者。
大人ならこういう。お前は自業自得だ。フジと鈴が結婚するのは仕方
ない、それが運命の巡り合わせだ、と。
でもあたしはまだ大人じゃない。一生、大人にはなれない。
だからそんな運命なら、粉々にぶっ壊してやる。
(続く)
9