2 連載小説「BLACK SWEET WIFE」
1衝撃の招待状
赤い眼をしたアルビノのディスカスが、お腹を上にむけて水面に浮いて
いる。あたしは十数匹の真っ白いディスカスが泳ぐ水槽を上から覗
きこんでみた。みんな死んだ子に無関心に、元気に泳ぎ回っている。
水槽は完全にハギの専有テリトリーだし、あたしは魚が嫌いだから、
できる なら触りたくない。でもそのままにしておくときっとハギが。
怒る。仕方なく魚網ですくって殻のクッキー缶の中に入れておいた。
結婚してからこれで七匹目だ。何万円もする高価な魚だけど、あたしに
とっては金魚と同じ価値しかなかった。
夜中にハギが帰ってくるまで、バルコニーの片隅に放置しよう。
通勤服のスーツを脱ぎすててシャワーを浴び、タンクトップ一 枚で
ドアについた 郵便ボックスをのぞく。そろそろ更新されたクレ
ジットカードが届く頃だ。
でもカードは来ておらず、代わりにあたし宛のハガキ大の厚ぼったい
封筒が入っていた。差出人を見た瞬間、世界の時間が凍結する。
「蒼海フジ 浅木鈴」
連名で書かれたその名前は、あたしにとって火がついた爆弾の導火線と
同じ。焦ったあまり封の口をたてに破ってしまう。中にはいっていた
厚ぼったい往復ハガキはやっぱり結婚披露宴の招待状だ。
2ヶ月後、六本木のホテルに入っているイタリアン・ストランで。
あたしは招待状を壁に投げつけ、床に崩れ落ちる。
みんな死ねばいい。