死にたい女と逃げたい女
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発行者:mira.p
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ジャンル:その他

公開開始日:2013/08/08
最終更新日:---

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死にたい女と逃げたい女 第1章 血の気
 《手すりの向こうにいる女》

この階段を登るのは初めてだった。

薄暗い階段。力が入らなくて手すりに頼りながら登った。8階までエレベーターを使ったのに屋上までの十数段を登る事すら最後の力を振り絞って登り屋上への重い鉄製の扉を開けた。

生ぬるい春の風を感じた。
辺りを見回すとベンチと灰皿が見えた。私の他には誰もいない。
バッグの中に手を入れてスマホでトップ画面を見た。23:04だった。
靴を脱いだ。コンクリートの地面は今夜の風とは裏腹にひんやりとする。
手すりに手をかけた。もう涙も出ない。恐怖も無い。
「死ぬ為」だけにここに来た。

手すりを乗り越え手すりの向こうへ降りる。
少し大きめに息を吸い込んだ。

先ほど通って来た賑やかな街が見える。
駅前の信号には点滅しているのに急がない若者たちの集団。タクシーはこんなにも綺麗に並んでいるなんて通った時には気づかなかった。後悔は無い。
目をつぶってまた少し大きめに息を吸い込んだ。もう一度ゆっくりと街を見下ろした。
賑やかで、綺麗で吸い込まれそうになる。驚いた事にこの場所に着いても死ぬことにためらいも無い。

目を閉じた。そして手すりを掴んでいる両手を離す。

その時だった。

「バタン、カチッ、ズッズッズッズッ」
背後から足音が聞こえて来た。

私は思わずもう一度手すりを掴んだ。
急に先ほどまでは聞こえなかった街の喧騒が耳に入って来た。そして街の街灯や車のランプ、月さえも眩しくなった。

血の気が引くとはこの事だろう。
心臓が痛い位にドキドキと動いているのを感じる。
同時に今いるこの場所に急に恐怖を感じ現実に引き戻された気分になった。

振り返る事が出来ない。今、歩いてきた人は私に気づいてないかも知れない。
気がついていないとしても、私が振り返る事で気配を感じてしまうかもしれない。

こんな事を考えてないで飛び込んでしまえば終わる。
全てが終わる。他人なんか関係ない。

私は死ぬ為にここにきた。躊躇すれば他人に飛び降りるのを止められてしまう。ここまで来る前には毎日泣き叫んでいた。辛かった。やっと開放されるのに邪魔などさせるものか。





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