みんな・愛してるよ
第72章 第七十二話 優夜お父さん
待合室で二十分位待ってると息を切らせながら汗だくで飛び込んできたお兄ちゃん。
普段はサラサラとなびく黒い髪も今は額に張り付いている。
「優輔! 優夜兄ちゃんに変な事言ってないよな? 例えば年とか、学校の事とか」今まで見た事が無い真剣な顔で聞いてきた。
「何も言ってないよ。でも、優夜お父さんってお兄ちゃんが教えてくれたように優しくて暖かい声してた」にっこり微笑みながら言うとお兄ちゃんも嬉しそうに笑って僕の頭を撫でてくれる。
「そっか。優夜兄ちゃんの事好きになれそう? 」
「うんっ」元気良く頷いた後康宏おじちゃんに電話するお兄ちゃんと一緒に病院から出た。
隣で電話してるお兄ちゃんを横目で見ながら一昨日買ってもらったスケッチブックに優夜お父さんの絵を描いていく。
絵が出来上がった位にお兄ちゃんから呼ばれて一緒に優夜お父さんの病室へ行く。
まだお話しするのが恥ずかしくて僕はお兄ちゃんの腰にしがみ付いてた。
病室の前で鉢合わせした担当の先生。
「お父さん目が覚めてよかったね。今はまだ眠ってた年月とか言わない方がいいと思うけど、普通にお話はしていいからね」お兄ちゃんと僕の頭を撫でてそのまま看護士さんの居るお部屋に向かっていった。
「優輔。お兄ちゃん思うんだけど、優輔の事ちゃんとお父さんに報告だけはしようね? 優輔もお話したいでしょ? 」何だか悲しそうに笑って僕の頭を撫でてくる。
お兄ちゃんの泣きそうに笑ってる顔が凄く胸が締め付けられるように痛くて、何だか辛くて悲しくて。どこかにお兄ちゃんが居なくなっちゃいそうで僕は何も言えないままお兄ちゃんにしがみ付いていた。
病室のドアをお兄ちゃんがノックすると少し間をおいてどうぞ、と返事が返ってくる。
扉が開かれてお兄ちゃんの腰に回した僕の手に、一粒の涙が落ちてきた。
303