みんな・愛してるよ
第8章 第八話 一人の恋路と一人の決断 そして一人の旅立ち?
すずめの声が夜の闇から朝の光に変わる時を告げてくる。
時間はどれだけ望んでも戻りはしないし、移り行く変化を変える事もしようとはしてくれない。
どれだけの代償を払うと言っても。自分の命さえくれてやると望んでも……
僕の目が覚めると頭が微妙に上下していた。
「そっか。あのまま寝ちゃったんだ」思考が記憶を呼び覚ますと同時に思い出したくない言葉まで呼び覚ます。
(いくら血が繋がってないからって義弟《おとうと》には変わりないんだから)その一言は未だに僕を蝕み続け、癒える所か一秒いや、片時も広がらずに留まろうとはしてくれなかった。
(亮輔ってこんな顔で寝てるんだ。やっぱりかっこいいな。この唇に僕は触れる事も許されないんだろうな。ずるいかもしれないけど、亮輔が寝てる今なら。ばれなければ。大丈夫かな? )亮輔の口を見るだけで体の熱は一気に上昇し、僕の体を焼き尽くす。それと比例するように亮輔の言葉が僕の心を切り裂き引きちぎらんとする。
そっと息を殺し、僕の唇は静かに亮輔の唇と重なり、一瞬のうちに離れる。
「やっぱり僕は亮輔の事」そっと呟き、唇を人差し指でそっと撫でながら、後ろ髪引かれる思いでベットを後にする。
一歩部屋から出るとリビングの方で話し声が聞こえ、その楽しそうな話し声が今の僕にとっては癇に障った。
(どうして僕だけがこんなに苦しい想いしなきゃいけないの? 僕だけが諦めなきゃいけないの? 僕がまだ子供だから? )
リビングの扉の前までは行くのだがどうしてもその扉を開く事ができない。
優夜がリビングの前に項垂れている所にいきなりドアが開かれる。
「優夜。そんな所で何してるの? 早く入ってご飯食べましょ。あら? どうしたの? もしかしてまだ亮輔ちゃんと仲直りしてなかったの? 」不必要な心配をする母に何も言わず素直にリビングへと足を進める。
「優夜君、おはよう。昨日はうちの亮輔がごめんね。亮輔まだ寝てるんだろ? あいつはいつも休みの日は起きるの遅くて私はあいつが休みの日はいつも一人で寂しかったんだ」朗らかに笑いながら話してくる義父にさえ苛立って仕方が無い。
(僕を家族って輪に入れないでよ! そこに入っちゃったら僕狂っちゃうよ)悲痛な言葉は誰にも届きはしない。否、届かないのではなく言えないのだ。
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