メトセラの仲間たち - 新進画家に復讐してください -
第2章 青く光る石のペンダント
「アルファロは、もっと優しい男じゃ。お前さんには、妙にキツく当たっておるようじゃが…。気にせんで良い。きっと、何か訳があるんじゃよ」
そう、それが言いたいが為に、屋敷に残り、わざわざセリエルの前に現れた伯爵だった。アルファロの性格を誰よりも理解している伯爵は、どうしても、仲が拗れてしまっているセリエルに、それを解ってもらいたかった。
「…訳!? そんなのないよ。ただ、あたしが嫌いなだけ。さっさと家を出ていけ、て暗に言ってるのよ。いつもいつも、忌々しいったら!」
文句を言いながら、また前を向いて、洗剤の泡で見えなくなったお湯の中を、落とした皿を手探りで見つけると、洗い直す。そんな、怒りで、周りがよく見えていないセリエルに、オルレイン伯爵は苦笑しながら、それでも気が済んだのか、スゥッと、また姿を消した。
「この間なんか、寝ているあたしの部屋に、ノックも無しで入ってきてさ、…いつもより1時間も早いのに、叩き起こされて。朝飯作れって、たったそれだけだよ。あぁ、違う、休みの日だ! 仕事の日じゃなくって、どっか遊びに行くからって、それだけで、つき合わされたんだよ。自分で作れって言ってやろうかと…」
共感してくれてるものと思いこんで、後ろを振り返ったセリエルは、そこにいるはずの伯爵の姿を見つけられないと、ポカンとして、また手から皿を滑らせてしまった。
「な、…なんだよっ、人が喋ってるのに!!」
急に横に立ったかと思ったら、断りもなく、また消えるだなんて。
男って、自分勝手!?
「嫌な感じっ」
物に当たるのは良くないのだが、さすがに、シンクの端をドンと叩いてしまった。
むー、と唸る。
持って行き場のない怒りを、なんとか静めると、そりゃ、他人の愚痴なんか聞きたくもないか…と、少しだけ反省した。
そして、まだ伯爵にお礼を言ってなかったことを思い出すと、シュンとする。
「…今度会ったら、ちゃんと言わなきゃ」
そして、思いを新たにした。
「早く、キラキラ、見つけよう」
一日でも早く、この家から出ていってやる! …そう固く決意すると、セリエルは、また黙々と、皿を洗い、お湯で流した。
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