メトセラの仲間たち - 新進画家に復讐してください -
第9章 デュマの復讐
アルファロの吐く息が、白い。鼻も少し赤くなってる。夜だから、しょうがないのだけれど…、自分を迎えに、こんな寒空の中、わざわざ出向いてくれたということが、複雑な気分になった。日頃の言動からは、想像がつかない。しかも、あんなにキツいこと言って、反対押し切って飛び出したのに…。少しだけ、胸が熱くなっていくようで、やっぱりとても…複雑になった。
彼は彼で、保護者としては、至極当然な行動だと、言うのだろうが。
「セリエル、こっち」
呼ばれ、雪が踏みしめられすぎて凍っている歩道を、危なっかしい足取りで歩いていたセリエルは、荷馬車が通る道から、向こう側の歩道にいるアルファロの元へと渡った。新雪なせいか、積雪量が多くて足を取られても、滑ることがないだけ、比較的歩きやすい。
そうして、3人揃って、街の中心地デイストリートにあるアトリエへと到着した頃には、炎はほぼ建物全体を覆いつくしていた。遠目からでもハッキリと分かるほどに、赤い炎が空へと舞い上がっている。野次馬も集まりだし、辺りは騒然としていた。
メキメキッ…、バキッ!
焼かれた柱が、折れて崩れる音が、至る所でする。
「…こりゃ、ひどいな」
手がつけられる状況には、もはやなかった。ほぼ全焼だろう。
火消しのできる人間や設備は、残念ながら、ない。隣近所に火が燃え移らないようにするだけで、精一杯だった。
周りの建物とは多少の距離があるせいか、今のところは延焼せず、アトリエのある建物だけが燃えている。そこは不幸中の幸いか。
それでも…。
「中の絵は、全部ダメね…」
サマンドが、悔しげに、燃え上がる炎を見上げた。その頬や、瞳が、紅く色づいているのを見て、セリエルは胸が締め付けられる思いがした。
今まで描き溜めた絵が、すべて目の前で燃えてしまっているのだから、誰だって、絶望する。心神喪失で、炎の中へ飛び込んで行かないだけ、まだマシだった。
「…!?」
アルファロが、ふと、人だかりから離れた場所の、建物の暗がりの方を振り返る。
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