メトセラの仲間たち - 新進画家に復讐してください -
第1章 キラキラを探してください
バスタオルを見つめて考え込んでいたセリエルだが、
「勘違いするな。飴とムチだ。バカは使いようってな」
とアルファロに突き放されると、心を見透かされた気がして、ムキーッと怒り心頭になった。
「バカって言う奴が、バカなんだ!!」
アルファロに冷たくなったバスタオルを投げ返すと、靴音高く、デスクの上の皿を持って、キッチンへと向かう。
「気性の激しい…」
口笛を吹いて、セリエルを見送ったアルファロだったが、少しすると、寂しそうに溜息をつき、バスタオルをソファにかけ、頭をかいた。
「お前さんらしくないの…。あんな言い方してたら、そりゃ、家出もしたくなるじゃろう」
いきなり、天井から声がして、アルファロの手が止まる。
「伯爵…、帰ったんじゃないんですか!?」
苦笑して、少し咎めるように聞くが、伯爵はまったく意に介していない。
「あんなに可愛い娘なのに」
天井からは、今しがた帰ったばかりのオルレイン伯爵が、逆さまに、顔だけ出して、アルファロを見下ろしていた。恐ろしいのが、被っていたシルクハットすらも、手で持っている訳でもないのに、頭から落ちてこない。
そう、オルレイン伯爵は、生き人ではなかった。あの世の住人、つまり、幽霊だ。
ヴィスコンティ家のご先祖様であり、今でも屋敷はおろか、町全体を見守る守護霊のような存在だった。可愛い孫娘が成人するまでと、屋敷に残るうち、その孫の孫の孫まで、目が離せなくなり、とうとう死後数百年も、町をウロつく、放浪爺になってしまった。自分の縄張りの範疇なら、アンテナを張り巡らしたかのごとく、意識が物事とシンクロしやすいらしい。どこで何があったかとか、自分の興味を引くものなら、なんでも手に取るように分かるという。自分の屋敷に関しては、それはもう身体の一部と同じようなものだそうで、誰がやって来たかとか、逐一肌で感じるものらしい。
なにか、化け物のような感じがするが、町の住人にとってはありがたい存在なのだろう。アルファロにしても、霊が見える特殊な能力があるせいか、小さい頃から可愛がってもらった、本当の祖父のような存在ですらあった。
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