メトセラの仲間たち - 新進画家に復讐してください -
第5章 風景画家サマンドとその妹デュマ
「事前調査もせずに実行に移すのは、致命的だ。ちゃんと戦略練ってからでないと」
そう言ったきり、目をつむり、うんともすんとも応じなくなったアルファロに、業を煮やしたデュマは、プイッとそっぽを向いて、部屋から出て行ってしまった。
「…」
なによ、あいつ! やること遅いんだからっ!! …と、デュマはいきり立って、廊下をズシズシ歩く。
そうして、セリエルの部屋の前まで来ると、立ち止まり、ものは試しと、ノックしてみる。でも、返事がなかったので、腹が立って、おもいきり叫んだ。
「あなたたちって、たいがい失礼ね!」
びっくりして、それまで読んでいた本から目を上げると、セリエルがドアの方を振り返る。
「…なに!? 今の声」
恐る恐る、ドアを開けて廊下を覗くが、誰もいない。
アルファロのいる書斎のドアも、開いてはいないし、空耳だろうかと、また部屋の中へと引き下がる。
────────── なんなんだろう、今の…。
耳にこびりついた女性の憤りの声に、身震いして、それ以上起きているのが怖くなったセリエルは、さっさと布団を頭からかぶりこんで、寝ようとした。
てっきり、ドアをノックしたのはアルファロだろうと思って無視したのだけれど…。
この家、広すぎるんだ…。だから、変な軋みの音が、声に聞こえたんだ…。
そう思い込もうとするが、結局、今の出来事が頭から離れず、ゆっくりと眠れなかったセリエルは、翌朝早くから、屋上にて、観葉植物に水遣りをしていた。道端や、土壌には積雪があるものの、融けるまでは、土に吸収されない。
「人間みたいに、口があったら、すぐに食べれるのにね」
フフッと笑いながら、あらかた水を遣り終えたセリエルは、ふと真下に、白のロングコートをはおったアルファロの姿を見つけて、手を止めた。
────────── こんな朝早くから、どこ行くんだろう!?
朝食も食べずに…!?
不審に思いながらも、ずっと彼の後姿を目で追っていたセリエルは、その横にいらぬものを発見して、思わず、持っていたジョウロを落としそうになり、慌てて取っ手を握り直した。
────────── えっ!?
よく見ると、隣にいるのは、肩にかかる金髪がカールしている…線の細い女性だった。ということは、例の、地下で会った、依頼人だ。
────────── そんなにしょっちゅう、依頼人と一緒に行動するの!?
「…」
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