大根と王妃シリーズ 番外編 『神和ぎの巫女と神堕としの少女』
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発行者:大雪
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ジャンル:ファンタジー

公開開始日:2010/07/21
最終更新日:2010/08/22 21:13

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大根と王妃シリーズ 番外編 『神和ぎの巫女と神堕としの少女』 第5章 土砂崩れと歌
荒れ狂っていた川が次第に静まり始める。
流石は蓮璋である。
やはり、凪国きっての術師という所か。

また雨脚も弱まりだし、ようやく水害の危機は去った。

「けれど、土砂崩れまではどうしようもありませんわね~」

のんびりとした口調で明燐が呟ければ、萩波もにっこりと笑って頷いた。

「土砂崩れ……」

あれだけの大雨が降り注いだのだ。
いくら木々が豊富で貯水能力があろうとも、許容範囲はもはやギリギリだろう。
だが、とりあえず今は山を下ってしまわなければならない。

既に他の車は今のうちにと橋を渡り始めている。

「さて、行きますよ」

戻ってきた蓮璋が後部座席に乗り込むと、いつの間にか運転席に移動していた萩波がハンドルを握る。

そのままアクセルを踏み、車を発進させた。
だが、前の車が慎重に橋を渡っているせいか、すぐにブレーキを踏み車を止める。

「とっとと渡って下さらないかしら」
「明燐さん……」

女神のような(実際女神)微笑みを浮かべながら毒をはく明燐に蒼麗の頬が引きつった。

「まあ、気長に行きますか」

明燐とは裏腹に、こんな状況すらも楽しんでいるかのような萩波がギアをパーキングに入れてのんびりと待つ。
が、突如後ろに座っていた蓮璋が萩波の耳元に何かを囁いた。

「――わかりました」
「萩波先生?」

笑みを消し、手早くギアを操作する萩波に蒼麗が首をかしげる。
と、手がギュっと握りしめられた。

「え?果竪さん?」
「歌」
「え?」

歌が聞こえる

果竪がそう呟いた瞬間、もの凄い遠心力が蒼麗の体にかかった。
果竪が悲鳴をあげ、蒼麗の腕の中に倒れ込み、更に蒼麗の体が蓮璋に抱き留められた。

車が急発進したのだと分かったのは、既に橋の向こうに滑るように走り抜けた後だった。


「な、何?!」

スピンするように車が今駆け抜けてきた橋に向いて止まり、蒼麗はひっくり返ったままの状態で呟いた。

それから数拍もおかないうちにそれは起きた。

空気ごと揺れるような地響きが辺りに木霊し、地面が揺れたかと思った次の瞬間、先ほどまで自分達の車が居た場所を見て蒼麗は唖然とした。

「ど、土砂崩れ……」

いや、土砂崩れだなんてかわいいものではない。
あれは山崩れだ。
先ほどまで居た場所は完全にそっくりそのまま無くなり、今さっき渡ってきた橋もその土砂で流されて姿を消した。
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